THE ENCOUNTER by Stéphan Crasneanscki
フランス人アーティスト、ステファン・クラスニアンスキー(Stéphan Crasneanscki)の作品集。 本書は、作者とフランス人哲学者のジャン=リュック・ナンシー(Jean-Luc Nancy)が、フランスの公共ラジオチャンネルのフランス・キュルチュール(France Culture)のために制作したラジオ劇「The Encounter」を元に刊行された。
このラジオ劇の題材となったのは、ユダヤ人詩人のパウル・ツェラン(Paul Celan)とドイツ人哲学者マルティン・ハイデガー(Martin Heidegger)の出会いである。二人はドイツのシュヴァルツヴァルト(「黒い森」を意味するドイツ南部の山岳地帯)にあるトートナウベルクで出会ったとされるが、その写真や証言、記録は残っておらず、ツェランによる詩が残されているだけであった。ツェランが残したこの詩は、果てしない物語への可能性を内包している。というのも、ハイデガーは1993年にナチ党へ入党し、ツェランはユダヤ人強制収容所へ収監された後に戦争孤児となった身であり、これらの境遇からして二人の会遇は不可能であったためである。しかし、1967年7月24日に二人はドイツ南西部の街フライブルクにて開催された詩の講演会に招かれ、その後ハイデガーが、自身が持つトートナウベルクの小屋へとツェルンを招待した。
人類発音論にも関わるこの作品は、作者が幼少期より定期的に訪れていたストラスブールやシュバルツヴァルトに留まらず、様々な場所に及んで作者とナンシーによる協同で制作された。作者は、ツェランとハイデガーが共に行ったり来たりしたであろう、どこに続くでもない小道を歩いた。動かない木々のシルエットを特定することで、二人が出会った際の距離感や、彷徨の地形を辿った。作者の声の不在に対し、ナンシーがたゆまず応え続けたことで、視覚と音の往復書簡が生まれ、ラジオの文字起こしと共に本書に映し出されている。
他に、ルクセンブルク系アメリカ人詩人、エッセイストのピエール・ジョリス(Pierre Joris)による序文、アメリカ人音楽家、作家、詩人のパティ・スミス(Patti Smith)によるテキスト、ジャン=リュック・ナンシーによるエッセイを収録している。