THE TOWN OF TOMORROW 50 YEARS OF THAMESMEAD by Peter Chadwick, Ben Weaver, Tara Darby, John Grindrod
ロンドンのエリス湿地を埋め立てて1960年代に造られた「テムズミード」に関する作品集。イギリス人アートディレクター、グラフィックデザイナーのピーター・チャドウィック(Peter Chadwick)が編集を手がけ、フォトグラファーのタラ・ダービー(Tara Darby)が写真とインタビューを、作家のジョン・グリンロッド(John Grindrod)がエッセイを寄稿する。「テムズミード」は、新しい街を建設して第二次世界大戦後の首都の住宅難を解消するというロンドン・カウンティ―・カウンシルの大胆な試みだった。いくつもの湖とそれを結ぶ運河に沿って建てられたコンクリートのモダンなテラスハウスに立ち並ぶマンション、ペデストリアンデッキの斬新で奇抜なデザインで知られ、世界中の建築家や社会学者、政治家から注目を浴びたが、それよりもむしろスタンリー・キューブリック監督の『時計仕掛けのオレンジ』の舞台として一躍有名になった。今日では4万人以上の人々が暮らす "テムズミード" は、長い年月の間に経済的・政治的・社会的な圧力の影響に晒されてきた。モダニストのコンクリート建築に対する批判が高まったことを受け、1980年代以降は従来の赤いレンガの建物が増えていった。1990年代には元々あった建物の一部が荒廃しはじめ、主としてカウンシルに運営されていた「テムズミード」の開発事業は、民間の資本に頼るようになっていった。1986年にグレーター・ロンドン・カウンシルが廃止されると、この街は様々な組織によって運営されるようになった。そして今、ロンドンの住宅組合ピーボディーが野心的な再開発計画に乗り出している。本作は "テムズミード" の歴史をまとめた保存版として、街の建築と住人を、既に存在する記録資料とタラ・ダービーに依頼した新しい写真との組み合わせで描き出している。当初の設計図、模型、ポストカード、パンフレット、新聞の記事の切り抜きなどと、地元住人とのインタビューも同時収録。ジョン・グランドロッドによる紹介文と数々のイメージによって、最初の野心的なヴィジョンから今のこの街に住むことに関わる複雑な現実まで、有名であるが故に誤解されがちなこの街の物語が描き出されている。