THE WHISPERING OF THINGS by Thomas Krempke
スイス人アーティスト、トマス・クルンプケ(Thomas Krempke)の作品集。作者は、2008年から毎日写真を撮るようになった。現像した写真をノートに貼り付け、相関関係を考察し、イメージについて文章化してきた。こうして、彼の物の見方の記録、写真日記、彼が目にしたものをマッピングした地図をまとめた一冊の本ができあがった。作者はどこにいても、どんなものでも構わずに写真を撮っている。イメージから何かを取り除いたり、逆に追加したりもしていない。ライティングさえも使わない。写真には、戦争も貧困も、奇抜なランドスケープも、目を引くようなものは何も映っていない。しかし、我々が日常生活と呼ぶシーンを写真に撮るという行為が、世界を見知らぬものに変えている。物事の表面の奥へ奥へと入り込んでいくカメラは、それまで誰も見たことがない未知の領域をミクロ的な視点から見つめる旅に観るものを誘う。撮ることによって何でもないものに威厳が生まれ、崇高さや詩情さえ漂うようになり、重みや重要性のスケールが変化する。自分が撮ったイメージを私たちの日常に溢れているメディア写真と対比させることによって、作者は記憶や夢で行われるのと同じように自分の人生をコード化し、自分だけのパラレルワールドを作り出す。朝目を覚ます時、私たちの知覚は心の中にある夜のイメージと客観的な昼間のイメージの間を揺れ動く。それと同じく彼のイメージは、目覚めているのに夢見ている、ぱっちりと目を開いた夢遊病者のように、何も考えずに自分の衝動に本能的に従う。イメージとテキストのモンタージュを通じて、彼は自分自身の日常における物の見方、物を見て写真を撮る自分なりのやり方、ひいては自分の世界に対する理解がどのように形成されるのかを探求している。本書は、ドイツ語版『Das Flüstern der Dinge』が2017年に出版されている。