BELGRAVIA by Karen Knorr
ドイツ生まれ、イギリスを拠点とするアメリカ人フォトグラファー、カレン・ノール(Karen Knorr)の作品集。本作は、サッチャー時代が幕を開けたばかりのロンドンに暮らしていた国際的で裕福な人々のイメージに引用文を組み合わせ、その者たちが属する階級やその権力を表現した一昨。1979年から1981年にかけて制作されながら2015年に初めて出版された。特権階級というマイノリティの「日常」を描いた本作は、人物を実際より良く見せようとした昔ながらの上流階級のポートレイトとは趣を異にし、被写体となった人々が撮影中に発した言葉の引用とポートレイトとの組み合わせに社会風刺が込められている。
「
ベルグレイヴィア(Belgravia)は、ロンドン屈指の国際色豊かな超高級住宅街です。ナイツブリッジに構えるデパート『ハロッズ』にも近く、non-domiciled(※註)な外国人が沢山いました。私の両親もベルグレイヴィアの住人で、このシリーズの2つ目のイメージは、ローンデス・スクエアにある我が家の「メゾネット」の居間で私の母と祖母を撮ったものです。しかし、この作品で表現しようとしたのは、そこに写っている個人についてではなく、歴史上のある時点における、ある特定のグループに属する人々と彼らの考え方についてです。これらの写真は、被写体を良く見せることを目的とせず、その人達の「真実」を写し出そうとしたものでもない、「非ポートレイト」とでも呼ぶべきものです。被写体の名前は出さないで、匿名のままにしています。」
この作品の意味は、イメージとテキストの行間に見出すことができるだろう。本作においては、テキストとイメージは互いの意味を明確にする関係にはなく、見るものがこの二つの間に生まれる「第三の意味」を補完することになる。テキストを検討し、その内容を踏まえた上でもう一度イメージの意味を考えるという作業は、見るプロセスをスローダウンさせる。キーワードを大文字で強調し、会話の中に出てきた言葉たちを分解して印画紙の表面に並べたことで、人為的に構成されたものであり、批判的なものであるというテキストの本質が強調されている。
※註 イギリスに住む、イギリス国籍を持たない人を指す。当時、イギリス国外の資産がある場合、それに対する課税が免除されていた。現在は当時と比べ税法に変更が生じている。