JOURNAL ENTRIES by Sabine Moritz
ケルンを拠点に活動するドイツ人アーティスト、ザビーネ・モーリッツ(Sabine Moritz)の作品集。2020年にロンドン・ソーホーにあるギャラリー「HENI」で開催された展覧会に伴い刊行された。世界が前例のない激動を経験した2020年3月から6月の間に制作した新作シリーズの全37点を、豊富な図版で紹介する。
作者の作品に繰り返し登場するシンボルであるバラの銅版画(エッチング)をベースに、瞑想的な日々の実践の中で、線、トーン、色彩を実験的駆使して表現している。木炭、オイルパステル、油絵具で手彩色され仕上げられた作品は、作者の幅広いジェスチャーとマークメイキングが表現されている。この37点の作品は、アメリカ人作家であるガートルード・スタイン(Gertrude Stein)の詩『聖なるエミリー(Sacred Emily)』(1913年)と共に全ページに渡って収録されている。
ガートルード・スタインの有名な詩の一節「バラはバラでありバラでありバラである(Rose is a rose is a rose is a rose.)」でリフレインされるように、作者はドローイングと版画を通じてバラを繰り返し実験的に表現している。スタインは1913年に書き下ろした詩で初めてこの詩行を書いたが、その詩全体の広い文脈は多くの読者に知られていない。本書では、各作品と10行で構成されているスタンザ(節)と並行して詩全体が収録されている。作者のドローイングは、スタインの言葉と自由で開放的な実験のシンフォニーを通じて対話している。
作者は、シンプルな芸術的な忍耐行為を用いることで、バラのエッチングによる無限の形を探求し、それはスタインの 「継続的現在("continuous present”)」と深く共鳴している。本書は、人類史上、比類のない激動の瞬間の中で過ぎ行く日々や、長期にわたる熟考の時間を、親密なドローイングで美しく捉えた「カプセル」である。
「それは、生きる喜びということである。」&mdash ザビーネ・モーリッツ