1969 (REDUX) by Bob Nickas [SIGNED]
アメリカ人キュレーター、 Bob Nickas(ボブ・ニッカス)の作品集。作者が1969年の個展と1991年にニューヨークの「Daniel Newburg Gallery」で開催した展覧会の際にコピー機で制作し、長らく絶版となっていたカタログを再現した1冊。単なる複製ではなく、作者自身が書き下ろした詳細なエッセイに加え、作者のイメージコレクションからオリジナル版には使われなかった素材を収録。限定150部発行、カバーには手作業でスタンプが押されている。最初の69部は著者のサインとシリアルナンバー入り。社会が大きく変化し不安に満ちていた時代に、反対意見の表明は不均衡を正し、世界を再び正常な状態に戻すための手段と考えられていたのかもしれない。1969年で終ったとはいえ、あの激動の10年の余波が突然消えてしまう訳はなかった。より大きな社会という分脈において時代の区切りとは単なる数字上の問題に過ぎない。大みそかのカウントダウンのようなもので、これから起きることへの期待と終わったことへの安堵感、あるいは一見楽観的な雰囲気の中でクライマックスに向けて盛り上がっていったとしても、実際に流れた時間はそれほどでもないのである。1969年12月31日と1970年1月1日の差はほんの数秒。それはどの新年でも同じで、目で見てすぐに分かる変化といえばキッチンの壁にかかっているカレンダーくらいのものである。しかし、少なくとも振り返ってみれば特別な1年だった1969年も、退屈しきった当時の若者にとっては代わり映えのしない1年だった。ザ・ストゥージズのファーストアルバムがリリースされた年をタイトルに掲げたイギー・ポップの「1969」は、政府への不満をスローガンに変えた。物憂げかと思えばキレッキレのギターがノリのいいバンドのグルーヴをかき消し、歌うというよりもつぶやいているような感情の起伏を抑えたボーカルが最後には激しくシャウトし、侮蔑的な音を長々と出して終わる。イギー・ポップらしい破天荒なパンクぶりだ。
「1969年。アメリカ中にまた新しい年がやってきた。俺にもお前にも、何もすることのない1年が」-ザ・ストゥージズ「1969」