HIS OWN WORST ENEMY by Damien Hirst
イギリス人アーティスト、ダミアン・ハースト(Damien Hirst)の作品集。2021年に香港のギャラリー「ホワイト・キューブ・ホンコン(White Cube Hong Kong)」で開催された展覧会に伴い刊行された。作者にとってアジアでは初となる本展では、2017年に「ヴェネチア・ビエンナーレ」で展示され高い評価を得たシリーズ「Treasures from the Wreck of the Unbelievable」の彫刻作品と、2021年に制作された新作絵画作品シリーズ「The Revelations」が展覧された。
「Treasures from the Wreck of the Unbelievable」は、10年かけて展開したプロジェクトであり、古代の難破船の架空の発見が題材となっている。彫刻、ドローイングなどのメディアを通して体現され、そのすべてが非常に多様な技術と素材を用いて制作された。ファンタジーと歴史を織り交ぜながら、歴史、信念体系、そして芸術そのものの神話、変わりやすさを提示した。本展では、このシリーズから5つの主要な彫刻作品が展示された。
タイトルを新約聖書のヨハネの黙示録から引用した「The Revelations」は、抽象的な身振りを感じさせる作品群である。豊かで暗い色調を用い、木炭色の下地を塗った滑らかな表面を、明るい色が和ぐように構成されている。
イギリス人作家、放送作家、美術史家で「ホワイトキューブ」で開催された前回の展覧会ディレクターを勤めたティム・マーロウ(Tim Marlow)との対談が収録されている。その中で作者は、「ポストトゥルース(post-truth / ※註)」時代を切り拓いていく方法の模索、宇宙の闇を解明することなど、二つの作品群を制作したその背景を再検証している。「(Studio) Jonathan Hares」が本書のデザインを手掛けており、展覧会風景を見開きで掲載、絵画作品は裁ち落としでレイアウトされ、作品のディティールも楽しむことができる。後半では彫刻作品に焦点をあて、鮮明な大判写真で紹介している。
※註 真実後、脱真実、真実の終焉を意味し、客観的事実よりも感情的・個人的な意見のほうがより強い影響力をもつ状況を表している。2016年のイギリスEU離脱決定やアメリカのトランプ大統領就任以降多用され広まり、イギリスのオックスフォード英語辞典が「2016年の世界の言葉」として選出した。