アメリカ人アーティスト、アリス・ニール（Alice Neel）の作品集。20世紀のアメリカにおける随一の具象画家である作者がヒューマニストであったことに驚きはない。その大胆かつストレートなポートレート作品で知られ、人とそれにまつわる全ての複雑さを描くことを愛し、人に魅了され続けてきた。作者は、人間の恐れと不安、その感情に対する反抗心と生存の在り方に深く立ち入ってそれを剥き出し、飾り気のない人の姿を捉えることも好んだ。殊にヌード作品は、身体を率直に探求しつつも個々の存在を讃えており、自身の作品とその人生に取り組む自由と勇気を示している。

絵画と紙に描いた作品を通して、作者は女性に植え付けられた煩わしい不自由なタブーや期待される抑圧から自身を解放し、そのことにより、人体と肉体の美しさ、機微な複雑さに対して集中することができた。それぞれの形や色彩、含まれる社会的な意見は高い熟度で表現され、描かれた当時と同じように今なおそのヌード作品の重要性は色褪せることがない。

本書はニューヨークのギャラリー「David Zwirner」で2019年に開催された個展を記録した一作である。1920年代から1980年代にかけて制作された作品を収録し、性別や年齢を問わず、主にヌード作品に焦点を当ててきている。作者が古典的なセクシャリティ、母性、そして社会における美の概念に対していかにして反発し、挑戦してきたかを実感することができる本書には、キュレーターのヘレン・モールズワース（Helen Molesworth）が新たに執筆した論文と、「The Estate of Alice Neel」のジニー・ニール（Ginny Neel）による序文もあわせて掲載されている。