ATL by Mark Steinmetz
アメリカ人フォトグラファー、マーク・シュタインメッツ(Mark Steinmetz)の作品集。アメリカの出版社「NAZRAELI PRESS」より刊行される作者の作品集としては14冊目となる本書は、アメリカ・ジョージア州のハイ美術館(High Museum of Art)が主宰する、アメリカ南部特有の様々なテーマを探究する写真アーカイブプロジェクト「
Picturing the South」の一環で撮影された作品群を収録している。作者は2012年から2019年にかけて、ハーツフィールド・ジャクソン・アトランタ国際空港(Hartsfield-Jackson Atlanta International Airport / ATL)を訪れる人々やそこで働く人々、その周辺環境を撮影した。
アメリカ人キュレーターのグレゴリー・J・ハリス(Gregory J. Harris)は冒頭で、本書に収録されている64点のモノクロ写真は「
この辺境の世界における静かな過渡の瞬間」を強調している、と語る。作者は、世界で最も忙しい空港の一つであるこの場所で繰り広げられる人の出入りの「より内省的な瞬間」を捉えている。2019年に「ハイ美術館」で行われたインタビューで作者が述べたように、これらの写真は、あらゆる年齢層の旅行者の「人生のひとつの章から旅立ち、新たな別の章へ向かう」瞬間を写し出している。また、航空会社のパイロット、グランドスタッフ、客室乗務員や清掃員といった空港で働く人々の姿も写し出されている。働く人々は旅行者と空間を共有してはいるが、常に働いていたり、しばしば何かを待っていたりする点で旅行者とは異なった様子を呈している。
また、作者は空港周辺の空き地にも焦点を当てている。広大で草木が覆い茂り、しばしば過疎化し住む人もいない地域は、賑やかで忙しい空港と地域の流動的な人口との間にある鋭いコントラストを提示する。さらに、飛行機の窓から撮影した作品には、雲や光の筋、飛行機雲の生々しい美しさが表現され、それは旅行者やこれらの写真を見る人が感じる「浮遊感、神秘性」と共鳴する。
数年をかけて撮影されたこれらの写真は、見る者に空の旅が持つ独特の時間を超越した感覚、永遠性を呼び起こさせる。本作は、空港という公共空間で繰り広げられる「ありふれた、それでいて魅力的な」人間ドラマを捉えた作品である。