FRANCE 1987 by Mark Steinmetz
アメリカ人フォトグラファー、マーク・シュタインメッツ(Mark Steinmetz)の作品集。
「1987年の夏、私が26歳で大学院を出てから数年が経ち、ボストン郊外の荒れ果てたアパートに住んでいた頃、南フランスにあるアーティスト・イン・レジデンスに行くことになり8月にパリへ飛んだ。ワグラム通りにあるアパルトマンの最上階で、親しい友人の家族と数週間を過ごした。友人たちはファッションと映画業界で働いており、僕が寝泊まりしたベッドはバーバレラを演じる前のジェーン・フォンダ(Jane Fonda)が使っていたものだと教えられた。寒い季節が近づいてきて、彼らはジーン・セバーグ(Jean Seberg)(ジャン=リュック・ゴダール (Jean-Luc Godard)の『勝手にしやがれ』、オットー・プレミンジャー(Otto Preminger)の『悲しみよこんにちは』に出演していた)が涙をこぼした茶色いコーデュロイのジャケットをくれた。朝食をいくらか食べてから、僕は一日中パリを駆け回って写真を撮った。お金もないのでほとんど食べずに、彼らのアパルトマンに帰ってから夕食とシャンパンを一杯いただいた。その年の後半に僕は南部に渡り、マルセイユからほど近い海辺の町、カシの『カマルゴ財団(Camargo Foundation)』でアーティスト・イン・レジデンスを始めた。作家のヴァージニア・ウルフ(Virginia Woolf)、点描画家のポール・シニャック(Paul Signac)、野獣派画家のアンドレ・ドラン(Andre Derain)とラウル・デュフィ(Raoul Dufy)やプロヴァンスの詩人のフレデリック・ミストラル(Frédéric Mistral)も長い時間をカシで過ごしている。僕はカシからアルル、エクス、マルセイユやニースまで日帰りで旅行に行き、与えられた簡易暗室でフィルムを現像できた。1987年には、携帯電話やデジタルカメラはなかった。誰かと会うためには時間と場所を決め、それぞれ予定通りに来なければならなかった。季節は今よりも長々と居座り、全体的に、皆がもっと時間に余裕があったようだった。公園や美術館、地下鉄は今ほど混んでいなかった。日常のリズムはよりリラックスしたものだった。1987年、当時も人々は不安を抱えていたけれど、今の我々ほど心配してはいなかった。」ー作者による序文より
作者による初公開写真を集めたこのコレクションは、35年前の南フランスの長期滞在期間中に制作され、アーティストとして活動する中で最初期の貴重な見識をもたらしてくれる。日本製の嵩高紙のアートペーパーにデュオトーンで美しくプリントされた60点以上もの写真作品を収録、バーガンディーのリネンで装丁されている。