NATURE MORTE by Thomas Ruff
ドイツ人フォトグラファー、トーマス・ルフ(Thomas Ruff)の作品集。2015年にロンドンの「ガゴシアン・ギャラリー(Gagosian Gallery)」で開催された展覧会に伴い刊行された。これまで新旧のテクノロジーを駆使し、建築、天体、ポルノ、ポートレートなどさまざまなジャンルの写真を再定義し、写真というメディアの限界に挑戦してきた。本書は、暗室で印画紙を直接感光し、投影像を作り出す伝統的な技法「フォトグラム」を発展させたシリーズを収録。この歴史的な手法に立ち返ることで、メタ写真というジャンルを確立させている。
ネガフィルムのもつ役割を逆転させることを目的として、プリントの元となるマスターのイメージを作り、セピア調のアルビューメン・プリント(※註)をデジタル処理しすることで、この幻想的な世界観を作り出している。実際に展示されていた作品のサイズは 29 x 22 cmで、19世紀に発明された写真技法に使用するガラス乾板とほぼ同じサイズである。
「デジタル写真が普及することで、私が25年以上ほぼ毎日使ってきたネガフィルムはほぼ姿を消した。もし自分の娘たちに『ネガって何?』と聞いたとしても、みたことも使ったこともないと目を丸くする。実は、ネガはそれ自体のことをさほど深く考えられてきたわけではなく、常に、そして最後まで『手段』でしかなかった。ネガは写真プリントが作られるための『マスター(原盤)』であり、その『マスター』を見ることに意義がある。」- トーマス・ルフ
本書はグラフィックデザイナーのソニア・ダヤコヴァ(Sonya Dyakova)が主宰する「アトリエ・ダヤコヴァ(Atelier Dyakova)」が装丁を手がける。
※註 19世紀半ばに発明された、鶏卵紙を用いたプリント。銀塩印画紙が現れるまで使用されていた。
インタビュー ソニア・ダヤコヴァ 『Donald Judd, Artworks: 1970–1994』における制作プロセスとその理想形