NICE by Luc Tuymans
ベルギー人アーティスト、リュック・タイマンス(Luc Tuymans)の作品集。現在最も重要な画家の一人である作者は、1980年代以降の作品に見られる他に類を見ない具象的スタイルを切り拓き、同世代の画家仲間だけでなく、後に続く世代のアーティストたちにも著しい影響を与えた。その深く心を共鳴させるような構図は、意味をもたらしながら隠すこともしうるイメージの力を主張する。控えめであり抑えられた色調のパレットで描かれたキャンバスは、歴史的、文化的かつ大衆的なメディアに起因した既存のイメージに基づいている。
本シリーズの静かなペインティングは、インターネットや自身のiPhoneから発生し、キャンバスへと見事に「翻訳」されている。その静謐な作品は、根底にある倫理的な複雑さを覆い隠している。
近作を収録したこの一冊は、現代のイメージ制作において見られる神秘性や異常性、可能性を作者の絵画そのものがいかに把握しているかを見せてくれる。2020年以降に制作された作品群にスポットを当て、ギャラリー「デイヴィッド・ツヴィルナー(David Zwirner)」で開催された3つの展覧会、「Good Luck」(2020年、香港)、「Eternity」(2022年、パリ)、「The Barn」(2023年、ニューヨーク)がまとめられている。この三部作において、作者は作品上でコントラストと彩度を高め、現代における世界規模の緊急性のまさにその瞬間を強調している。
小説家のジョシュア・コーエン(Joshua Cohen)、美術史家のジョナサン・クレーリー(Jonathan Crary)とエリック・ドゥ・シャセ(Éric de Chassey)、作家・批評家のリン・ティルマン(Lynne Tillman)、作家のスー・ウェイによる寄稿を収録。作者の抱く展望と、デジタルが浸透し飽和した現代における絵画との関連性に向けた主張の両方を、深くそして立体的に理解することができる。