SUBSCRIPTION SERIES #7 by Carmen Winant, Juergen Teller, Mona Kuhn, Paul Kooiker
アメリカ・オークランドを拠点とするインディペンデント出版社「TBW BOOKS」が4人の写真家をキュレーションし、同じフォーマットでそれぞれの作品集を1セットにまとめて発行する『Subscription Series』の第7弾。今回はアメリカ・オハイオ州で活動するフォトグラファー、カルメン・ワイナン(Carmen Winant)やドイツ人フォトグラファー、ユルゲン・テラー(Juergen Teller)、ブラジル人フォトグラファー、モナ・クーン(Mona Kuhn)、オランダ人アーティスト、ポール・コイカー(Paul Kooiker)の4人が参加、人のかたちという概念を掘り下げた。異なるスタイルで共通のテーマにアプローチし、自らの芸術に向き合ったことで、1人1人のアーティストの作品だけでなく写真の言語についても新たな発見がもたらされた。それぞれが独立した作品集でありながら4冊揃うと確かに1つの対話が共有されている本シリーズは、全体として1つの写真による瞑想として見ることができる。
カルメン・ワイナン『BODY INDEX』
本作は、今から10年ほど前に作者がヌードデッサンのモデルをしていた時の体験から生まれた。あらゆる角度から見つめられている自分を見ていた作者は、女性の身体が視線に晒され、芸術に変えられていく瞬間に心を揺さぶられ、ポーズをとっている女性のイメージを集めてコラージュを作り始めた。アーティストのための美術解剖学の参考資料として作られたイメージを通じて、作者はカメラの視線にさらされた女性の身体がどのように使われているのかを探求した。こうしたイメージを分脈にあてはめて解釈するために、作者はポーズをとる身体に隠された抵抗の証を探し出して提示する。特に意味のない、学びの道具にされた被写体たちは、落ち着き払い優位に立っているようにも、どこか常軌を逸しているようにも見える。作者はその上に分離派のレズビアンやマッサージセラピストなど様々な身体のイメージを重ね合わせて、女性が持つ力と静けさの意味が錯綜する1つの絵画を作り上げていった。もともとこれらは何百ものイメージから成る複数のパネルで構成されたモジュール式の作品の一部だが、ここでは1人の人物に1枚のイメージを重ねた部分だけが厳選されている。
ユルゲン・テラー『THE NIPPLE』
本書において、まず初めにマスクをつけたヌードの被写体の表紙に目を奪われる。コロナ以前に撮られたこのイメージは、人間のかたちを賛美すると同時に、いつか必ずこの世から消えてなくなる我々の肉体のはかなさをほのめかしている。作者は、皮肉なほどカジュアルなスタイルで撮影した、人っ子一人いないヨーロッパの街の通りに放置されている誰も使わない運動器具のイメージを通じて身体に言及する。反復するイメージの中には時折パーソナルな要素が差し込まれている。例えば内視鏡検査を受けている作者自身の姿は、定期的な検査なのかもしれないが、深刻な病気なのかもしれないと思わせる。人の身体を切り取ったイメージの次には、床に脱ぎ捨てられた恐竜のコスチューム、車に轢かれて内蔵が飛び出したカエルの死体、死んでから何日も経っている魚など、死を思わせるイメージが続く。人が写っていない、はかなさを表現したイメージと身体的な生命力に満ちたイメージを対比させることによって、作者はこの作品が印刷された時にはまだ訪れていなかった孤独と緊張感を鮮やかに予見してみせた。
モナ・クーン『STUDY』
本作で作者は、写真の道に進むきっかけとなった「目に見えないイメージ」に立ち返った。1920年代のシュールレアリスムの写真家にインスパイアされた作者は、感光によって得られるこの世のものとは思えないイメージを追求した。マン・レイの写真を現像していたリー・ミラーが発見したと言われるが、最終的にはマン・レイが自分の名前にちなんでレイヨグラフと命名したこのプロセスを用いると、錬金術師が被写体の輪郭を描いたような独特のビジュアルが生まれる。この技法は人と同じくらい複雑で不確実であるため、現在の素材を使って昔のやり方を真似しても同じイメージを再現することはできない。自分で作ったイメージの中の人物のように、作者自身も自分なりのバランスを見つけようとした結果、魔法のような酸化の働きによって輝く銀色のレイヤーが重なり合ったユニークなイメージが出来上がった。見えないイメージを描き出す作者の実験は、被写体のカフカ的な存在感を反映している。脆弱で好奇心旺盛な自我、姿の見えない聴衆に語りかけているような自信に満ちたポーズ、完璧に制御されたものから元はなんだったのか分からないような輪郭に至るまで、作者の写真は現実と超現実の瀬戸際を漂いながら不合理なニュアンスを強調している。
ポール・コイカー『BUSINESS OF FASHION』
2018年にファッションデザイナーのミシェル・ラミー(Michéle Lamy)に招待され、「the Business of Fashion (BOF)」が毎年主催している招待制のイベント「Voices」でアートパフォーマンスを行った際に作られた作品。世界のファッション界をリードするクリエイターたちが集まるこのイベントでイノベーターや起業家とのつながりが生まれ、大衆文化に大きな影響を与えている。ラミーの依頼を受けた作者はゲスト1人1人の写真を撮った。作者は全員に腕をやや広げて立った同じポーズをとらせ、首から下だけを写すことによって彼らを均一化した。モノクロの無地の背景をバックにした被写体は誰もが見覚えがあるような人達だが、こうなるとほとんど誰が誰だか分からない。頭部のないマネキンのような姿は、ウィンドウディスプレイや通販カタログ、ファッション業界を牽引しているオンラインショップを連想させる。のぞき見しているような面白さと皮肉っぽいユーモアを感じさせる写真から、最先端のファッションを作っている人たちが実は結構ありふれた洋服を着ていることが分かる。