TOKYO by Paul Kooiker
オランダ人アーティスト、ポール・コイカー(Paul Kooiker)の作品集。高い評価を得た「NUDE ANIMAL CIGAR」(ART PAPER EDITIONS, 2015)出版後、同年にG/P Galleryの招聘レジデンスプロジェクトで作家が来日した際に東京で行われた一度きりのフォトセッションを元に制作されたシリーズ。とあるビルでセミヌードの日本人モデルにピンナップのようなポーズを取らせその後ろ姿を12枚のカラー写真に収めた。翌年春、オランダのギャラリー「tegenboschvanvreden」で「HISTORY X」として発表したのち、その中から代表的なイメージをフォトショップで加工。レイヤーにレイヤーを重ねたり、認識できなくなるぐらいまでカラースペクトルを存分に使った実験を繰り返し、絵画のような作品に仕上げ大判のインクジェットプリンターで印刷した。その後、さらなる可能性を探るため正方形フォーマットにサイズを変え、モデルの臀部に焦点を絞り、フォトショップでの加工を続け全部で数百枚ものイメージを作成、最終的に106枚に絞り「TOKYO」を完成させた。このようなプロセスを経て一つのテーマに対して作られうるバリエーションの可能性、多様性の限界を、写真という媒体で提示している。20世紀のアートに造詣が深い読者にとって本作は、構成主義やキュビズム、シュールレアリスム、抽象表現主義、ポップアート、ミニマリズムなどの芸術運動を想起することは避けられないが、この「TOKYO」は絵画の画集ではない。むしろ作者は、写真を限界まで拡張させ、その結果一見絵画の画集のようになっているかもしれないが、結局のところそれは絵画でも写真でもないものに仕上がっている。極端な抽象化と、クリシェ(常套句、決まり文句)的なデジタル加工を偏執に繰り返す荒技を融合させ、作家自身が究極的な自由を獲得している。その野心的な物量、物語性や感情を排した編集、写真集とアートブックの境界線上を歩くような試みが詰まった一冊である。モンドリアン財団のサポートにより、ベルギー・ゲントを拠点に活動するART PAPER EDITIONSと日本を拠点とするART BEAT PUBLISHERSとの共同出版。それぞれの出版社が異なるカバーを用いていており、本サイトではART PAPER EDITIONS版を販売。