VISCOSE JOURNAL ISSUE 03: ASIAS

2021年にニューヨークとコペンハーゲンを拠点に始動したファッション批評誌。ファッション・アートスカラーでありキュレーターのイエッペ・ウゲルヴィグ(Jeppe Ugelvig)が編集長を務める。毎号特定のテーマを掲げ不定期に刊行する本誌は、それぞれ異なる本の形式を採用し、ジャンルを超えた思考を提案することで、ファッションにおける研究、制作、また批評の可能性を拡げることに挑んでいる。あらゆる領域、産業、場所の孤立化を拒みつつ、世界中の知的なファッションコミュニティを対象に発信する。また、研究機関や美術館などと共同で研究を進めることで、広告を掲載することなく刊行を続けている。

第3号である本書は、ロンドンを拠点にライター、ディレクターとして活動するチュオ・ウン(Cheuk Ng)との共同編集で制作され、デザインは上海を拠点とする「ecocatcher」が担当、ファッションを通した「Asias(アジア)」という概念の脱構築を試みている。「Asias」、つまり複数形であるこの単語が持つ可能性を重視し、本号はファッションのグローバルサプライチェーンにおける階層の奥深くまで詳かにする。生産者から消費者まで、世界中に存在する自らを「アジア人」と自認する可能性のあるあらゆる人々の多孔性コミュニティを考察する。

10カ国以上から集まった寄稿者、また世界中のディアスポラ(移民、移民コミュニティー)を迎え、本号は南シナ海に面する地域に焦点を当てる。アジアという単一の観念、イメージ、そして場所という概念に異議を唱え、代わりに、狂乱するファッションのシステムの中で象徴的、経済的、社会的、そして政治的に利用される一連の「アジア」を生み出している。

本号は断固とした、また自意識に基づいた多元主義と共に制作されている。一つの方向性を示すのではなくむしろ、起源、コミュニティ、所有権、象徴、流用、ディアスポラといった常に不安定な問題に対する創意に満ちた解答の幅広い可能性、またこれら諸問題が危険を伴いながらもスリリングにスタイルとして交差する方法を解説している。

Viscose Journalは2021年にスタートしたファッション批評のジャーナル。香港に住む仲良しの友人、Cheuk Ngが彼らの編集アシスタントをしている繋がりで、私も初めて知った。Cheukは私と同時期にロンドンで大学に通い、大学を卒業後は、お互い母国に戻り活動していたので、彼女が今どんな仕事をしているのか興味津々だった。

雑誌が手元に届き、まずそのユニークな表紙デザインに驚いた。光沢のあるクロコダイルのハンドバッグのような形。見た目の可愛らしさとは裏腹に、ページを開くとヴィジュアルメインではなく、さまざまな分野の著者が執筆した文章がぎっしりと掲載されている。じっくりと文章を読み進める中で、私自身がこれまで、ファッション批評というものに出合ったことがなかったと気づいた。以前から私は、ファッションそのものというよりも、ファッションとアート、文化、サブカルチャー、労働、政治、テクノロジーとの結びつきと、相互作用について興味がある。さらに言えば、ファッションはグローバルな資本主義社会を代表するものだとも思っている。 今、世の中に広く出まわっているファッションに関する文章は、主にマーケティングのために出版され、それゆえ読者を顧客のように扱う、消費カルチャーの奴隷とも言えるだろう。Viscose Journalはそういったモデルにとらわれず、社会の中でのファッションの役割、またファッションが生み出す美しさの概念について、さまざまな角度から考察する場を提供している。雑誌名の由来となっているのは、汎用性が高いと言われ、私たちにとっても身近な素材であるビスコース生地。Viscose Journalはファッションを軸に、クリティシズムを媒介として、さまざまなカテゴリーとつながっているのだ。

特に印象的だった記事は、創刊号の『Buy and Let』という記事。 作家でミュージシャンのDavid LieskeとファッションデザイナーのBakri Baknitによる対談だ。二人はハンブルグのファッションアーカイブ兼ショールーム「RAW-fitting」で出会い、その場所とそこで過ごした時間が特別なものだったと語る。マルタン マルジェラのアーカイブ商品や、ベルンハルト・ウィルヘルム、BLESS、HAKEEMのような実験的なデザイナーの作品を展示していた場所だったという「RAW-fitting」。彼らは、90年代と00年代のファッションは、今よりはるかに破壊的であったと話し、そんな流動的なプラットフォームがもう存在しないことを嘆く。ベルナデットコーポレーションのベルナデット・ヴァン・ホイは、記事の中で「90年代末のファッションを、インターネット以前のインターネット」と表現している。「ファッションは、他のすべての分野にとって未知のスピードで、いろんな物をつなぐプラットフォームだった。ファッション、写真、建築、音楽、クラブカルチャー、すべてがひとつに融合していた」と彼が話すように、ライフスタイルの表現=ファッションだったのだろう。リチャード・プリンスがヘルムート・ラングを撮影し、エルメスのバッグは泥の中で撮影され、ボロボロな服を着るアン・ソフィー・バックをアンダース・エドストロームが撮る。80年代後半の不況の影響で、アーティストたちは生き残るためにファッション業界に目を向けなければならなかった。その結果、ショップの概念を崩し新しい提案をしたBLESSやRAW-fittingが台頭し、服よりもコンセプトが売れるようになったのだ。

現在の消費文化、カルト的存在のデザイナー、ブランド名のハイプなどに疑問符を投げかけるBLESS。デザイナーたちの顔が巨大にプリントされたBLESSのジャンパーを買う人は、彼らの罠にハマったようなものである。このようにファッションの世界は捻くれてもいるけど 、どこかファニーなところに私は惹かれる。ちょうど周ってくるトレンドの20年サイクル、00年代のデザイナーに今とても興味がある。インターネットが普及していない時代のドキュメンテーションや情報を見つけることは難しい。だからこそ、私にとってViscose Journalは教科書のような存在だ。

– Tenko Nakajima / 点子

EVENT:

VISCOSE 03 / here and there Vol.15
Double Magazine Launch Open House:
日程:2022年6月25日(土)
時間:15:00-20:00
パネルディスカッション:18:00-20:00
ゲスト:イエッペ・ウゲルヴィグ、林央子(編集者、here and there主宰)
開催場所:HAPPA
※本イベントは終了いたしました

by Jeppe Ugelvig

REGULAR PRICE ¥4,950  (tax incl.)

softcover
264 pages
179 x 372 mm
color, black and white
2022

published by VISCOSE