アメリカ人アーティスト、ジミー・デ・サナ（Jimmy DeSana）の作品集。

1990年にこの世を去る直前に作者が構想し、未発表の刊行物となっていた本書は、喪失、死、無について、静かに、かつ詩的に熟考する、晩年に制作された44点の抽象写真作品を収録している。そこに写るコラージュや暗室での加工を駆使して変容させられた遺物、身体の一部、花や果物は、本質に迫っているようで、異世界のものにも見える。当時増えつつあった、大胆な政治的発言に傾きがちなHIV/AIDSを巡る作品に対して、曖昧でありながらも洗練された対極を提示する一冊となっている。

収められている作品の多くが、1988年にニューヨークの「パット・ハーン・ギャラリー（Pat Hearn Gallery）」で開催された作者にとって最後の個展で初めて発表された。その直後、最終的なレイアウトに含まれるであろうカラー作品の代わりとして白黒写真を用いながら、本書のマケット（試作品）を制作し始めた。残念ながら生前に完成することはなく、死の淵で長年の友人であるアーティストのローリー・シモンズ（Laurie Simmons）に、作品を完成させるための指示が口頭で伝えられ、シモンズはその指示を世界で一つだけの試作品の各ページに書き込んだ。このメモを元に、現存するスライドとシークエンスを合わせることができたのだ。書籍をまとめる際、シモンズのスタジオは個々の白黒写真に合わせた特定のカラーフィルターを作者のアーカイブから選んだ。全行程において、作者による元来のビジョンを尊重し、具現化できるよう制作されたこの再現作業のおかげで、作者の最後の集大成とも言われてきた本作が、ようやく初めて日の目を見ることができたのである。