VERDIGRIS / AMBERGRIS by Paul Graham [SIGNED]
イギリス人フォトグラファー、ポール・グラハム(Paul Graham)の作品集。本書は、命の儚さや死すべき運命に対し、作者が12年かけて向き合い制作し続けた作品群を完結させ、すべて2冊の本に収めたものである。「ベルディグリ(緑青 / Verdigris)」の大陸と「アンバーグリス(龍涎香 / Ambergris)」の海を見渡し、果てしなく広がる水平線へと目を向ける人々を中心に据えた、対となる兄弟のような2冊である。瞑想的なポートレイトと交互に、第一巻では桜のイメージ群を、第二巻では沈む太陽のイメージ群を並べている。桜は、作者が過去7年間にわたって拠点としているニュージャージー州の脱工業化地帯を見下ろす公園で撮影され、落陽は、日の入りを眺める古い伝統を持つロング・アイランド島の北岸沿いで撮られたものである。
作者は自然の美しさの典型とも言えるものとその観察者を取り上げ、我々がいかにして世界の美しさを目のあたりにし、経験するか、多層的に分析をしている。水平線を見つめる人々のポートレートはマジックアワーの明澄感と共に撮られているが、その間に挟み込まれる桜や日没は、制作プロセスを通してイメージを改悪している。「ベルディグリ」の桜は微妙に推移させた複数の細かな露光を用い、超高解像度に設定したデジタルカメラで捉えた。しかしその写りは、そよ風のささやかな動きに乱され、まとまった表現を組み立てられずにいる。一方で、「アンバーグリス」の再度の高い夕暮れは、近しい画素数から近似値の色を採るのではなく、各画素位置で色彩情報を拾うカメラが用いられている。限界を超えて撮影されたイメージは、圧倒的な情報量の力で人工的な芸術の色彩に染まる。
この眩惑的なシリーズをもって、作者は道具の持つ欠点を享受し、命の無常さ、それにより余り溢れる驚嘆、そして美に容赦なくつきまとう劣化と終焉を呼び起こさせる。
(「緑青(ベルディグリ)」は、酸化銅の青錆あり、「自由の女神像(Statue of Liberty)」に見られるものと同じものである。「龍涎香(アンバーグリス)」は鯨から採れる希少かつ神秘的な産物であり、海岸の漂着物コレクターに好まれ、香水製造者からは大変貴重なものとされている。)