ニューヨークを拠点として彫刻、絵画、デザイン、建築の領域を跨ぎ活動するルーマニア出身アーティスト、セルバン・イオネスク（Serban Ionescu）の作品集。実際は鉄で作られている彫刻作品が持つ自由気ままな輪郭や目の覚めるような色彩が、68ページの大判ボードブックを印刷、型抜きすることで再現されており、この本そのものが作者の彫刻作品となっている。また本作は、作家仲間であり親友のジェームス・イングリッシュ・リアリー（James English Leary）によって書かれた三幕構成の劇でもある。作者のアーティスティックなアプローチを尊重し、「Happy Lattice」「Dog Bench Loaf」「Assembled Chair」などそれぞれの作品に名付けて奇妙なキャラクターのオールスターに特徴をつけ、非常に滑稽な状況の中で、作者のアイデアを掘り下げている。2017年から2021年にかけて制作された作品で構成した本作は、家具と彫刻を隔てる境界線を超えて、作者の描く擬人化された世界へと直接入ることができる。もし家具としてこの作品群が分類されていたら、遊び心を持って脅かしてくるポルターガイストに乗っ取られた作品かと鑑賞者は思うだろう。憑依されたこの作品たちは、分類できないものへと変容していく途中段階なのである。