THE DETOUR OF IDENTITY by Roni Horn
アメリカ人アーティスト、ロニ・ホーン(Roni Horn)の作品集。2024年5月から9月にデンマークの「ルイジアナ近代美術館(Louisiana Museum of Modern Art)」で開催された展覧会に伴い刊行された。本展は、北欧における作者にとって初の包括的な古典である。
写真、彫刻、ドローイング、書籍など、作者の多様な制作による実践全体に共通する包括的なテーマは、ジェンダー、身体、経験、時間、風景を通して見つめる、自己と他者のアイデンティティであることは疑いようもない。自分は誰なのか、自分の性別は何を意味するのか、感情を表す言語は何なのか、自然の摂理と人間の摂理とは何なのか。その問いは哲学的かつ根源的なものであり、その答えは具体的な芸術作品として提示され、解釈は自由である。
キュレーターであるジェリー・ゴロヴォイ(Jerry Gorovoy)が企画した本展では、名作映画と作者の作品との対話を生み出し、アイデンティティの移り変わりを考察する。カール・テオドール・ドライヤー(Carl Theodor Dreyer)監督の『裁かるるジャンヌ(原題:The Passion of Joan of Arc)』からアルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)監督の『めまい(原題:Vertigo)』、イングマール・ベルイマン(Ingmar Bergman)監督の『仮面/ペルソナ(原題:Persona)』まで、作者にインスピレーションを与えた映画のスチルや台詞が、作者の様々な作品と一緒に展示されている。ドローイングの切り取り/つなぎ合わせや、撮影した写真のクローズアップといった映画的なアプローチがどのように用いられているのか、あるいは映画における鏡を用いた戯れや登場人物の二重性(アイデンティティの喪失、誤った認識、盗用)が、作者の芸術における視覚的な組み合わせや、場所/移動、同一性/差異、欲望/恐怖といった概念的な組み合わせをどのように反映しているのか、その関連性の豊かさが表出している。興味深いことに、作者自身は映画を制作していない。むしろ、そのヴィジョンの中で映画的な構造と感性が変容することで、アイデンティティの追求は、より逆説的で、複雑で、説得力のあるものになる。
同美術館館長のポール・エリック・トイナー(Poul Erik Tøjner)、評論家のエリザベス・ブロンフェン(Elisabeth Bronfen)、美術史家のブリオニー・フェール(Briony Fer)、作家で評論家のゲイリー・インディアナ(Gary Indiana)によるエッセイは、作者の作品制作とその理解において映画が重要であることを明らかにする。文学と言語は作者の芸術性の鍵として捉えられがちであるが、本書は作品と映画を並べることで、身体、欲望、ファンタジー、セクシュアリティが、作者のアイデンティティの探求にとって映画も同様に重要であること我々に教えてくれる。