ICONOGRAPHY - XXV Figures of Jeanne Damas by Vincent Ferrané
フランス人フォトグラファー、ヴァンサン・フェラーネ(Vincent Ferrané)の作品集。美しさの基準を構造化する「芸術的カノン(aesthetic canon)」という言葉の中で「カノン」は「規則」の概念を意味している。しかしながらこれらの規則はどこかに明記されているわけではなく、これが定める内容は時と共に移り変わる。美の表現とは、美学的の範囲であることはもちろんだが、文化的・社会的なものである。いわゆる「イットガール - モデル - ビジネスウーマン」と呼ばれるジャンヌ・ダマス(Jeanne Damas)は、理想の女性の現代的な側面を幾つも体現している。絶大な人気を誇るダマスのグローバルな影響力は、ソーシャルネットワークが誕生した現代以前には考えられないものだった。その上ダマスは、自分自身の生活を撮った写真を投稿することによって自己のイメージを作り上げた。そこにはお気に入りのもの、スタイリングやメークの仕方、自身のブランドの洋服やコスメが写っている。本作のきっかけとなったのは、ニュートラルな背景でダマスに自分自身を再演してもらうというアイデアだった。以前と同じジェスチャーやポーズをとってもらったり、ファンやメディアが高く評価しているダマスのイメージを不動のものとしている、写真の中の要素や象徴的なツールを再び使ったりしている。このパブリックイメージこそ、ダマスをファッションアイコンたらしめているものである。こうしてできた作品は、身体の表現に関する研究、ある種の調査、あるいは証拠の探求というべきものだった。肉体、もの、ツールで構成された不思議なパズルのようでもある。ここでは、シュルレアリスムにおける作品の共同制作の手法である「優美な屍骸」を用い、これらの芸術的な暗黙の了解事項が表現されている。言い換えれば、古典期に見られるポーズの「コントラポスト」、イスラム教国宮中の女奴隷「オダリスク」の姿、映画の中で危険な魅力を放つ煙草を持った「ファム・ファタール」、ポップアートへの言及を用い、セルフィーを撮るときのポーズというよりは洋服のオンラインストアで見られる身体表現などが取り入れられている。