BASKETBALL & KOOL-AID by David Hammons

アメリカ人アーティスト、デイヴィッド・ハモンズ(David Hammons)の作品集。2021年にニューヨークのギャラリー「Nahmad Contemporary」で開催された展覧会に伴い刊行された。1995年から2012年にかけて制作された2つのシリーズバスケットボール(BASKETBALL)」(1995-2012年)と「クールエイド(KOOL-AID)」(2003-2007年)に初めてスポットを当てている。

50年以上にわたり制作された多面的な作品群から一貫して見られるのは、アメリカにおける人種的なステレオタイプや偏見、そしてアイデンティティへの追及である。本2作品においては、人種の構造や、アフリカ系アメリカ人の経験や文化に結びついた固定概念について掘り下げた内容となっている。

バスケットボール」では、バスケットボールの地として知られる「ハーレム」の塵にまみれたバスケットボールを白い紙にバウンドさせる手法が用いられている。その痕跡は、バスケットボールが社会から疎外されたコミュニティへ約束した、
社会的かつ金銭的な優越性の比喩でもある。さらにそのボールが描く予測し難い軌跡は、NBAでの名声を得るべく努力を続けるアスリートたちの不安定さやチャンスを狙わなければならないその道筋を思い起こさせる。

クールエイド」では、アメリカで人気の「クールエイド(Kool-Aid)」というカラフルな粉末ドリンクを用い、爆発的なイメージを紙上で描き、そこに日本語で作り方を記載している。視覚的に色鮮やかに仕上げられた本作は「カラー・フィールド・ペインティング」を想起させるが、それ以上にその突飛な材料は、エド・ルシェー(Ed Ruscha)の「Stain」シリーズや、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)の「酸化絵画(The Oxidation Paintings)」シリーズを思い起こさせる。また、砂糖が多く使われた安価なそのドリンクと、アフリカ系アメリカ人の文化との関連性や、アメリカのカルト教団「人民寺院(Peoples Temple)」のメンバーのうちアフリカ系アメリカ人を多く含む900人以上が亡くなった「ジョーンズタウン大虐殺(Jonestown Massacre)」に由来する「クール=エイドを飲む(drinking the Kool-Aid)」という慣用句にも関連しており、紛れもなく政治的な事象を孕んだ作品であると言える。また、今作では「クールエイド」の粉の着色料を保護するため絹布で作品の表面を覆っており、「バスケットボール」と同様に彫刻的な要素も含んでいる。そこからは「アッサンブラージュ」や「ファウンド・オブジェクト」との親和性が見え、壁や覆うことに対する作者の特別な思い入れを感じさせる。

作者は、1959年から1979年にかけてイタリアで展開した芸術運動「アルテ・ポーヴェラ(Arte Povera / 貧しい芸術)」に対する素材への関心と、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)のコンセプトに対する考察を経て、素材・イメージ・物質・言語に固有の文化的かつ社会的背景を探るべく、日常生活でみられる儚い物質を流用(アプロプリエー
ション)している。今作において、前衛的な手法と型破りな素材を用いた抽象的な構成を取り入れ、鋭敏な型や素材やコンセプトに対する自身の探究を説得力ある作品へと昇華させていることが本書より見て取れる。

by David Hammons

REGULAR PRICE ¥18,700  (tax incl.)

hardcover
128 pages
267 x 311 mm
color
2021

published by NAHMAD CONTEMPORARY