WAR PRIMER 2 by Adam Broomberg & Oliver Chanarin [SIGNED]
ロンドンを拠点とするアーティストデュオ、 アダム・ブルームバーグ & オリバー・チャナリン(Adam Broomberg & Oliver Chanarin)の作品集。2011年に100部限定でMACKより刊行されたハードカバー版を複写したソフトカバー版。本シリーズにて、2013年の「Deutsche Börse Photography Prize」を受賞している。本書は、ドイツの劇作家であり詩人、演出家のベルトルト・ブレヒト(Bertolt Brecht)の名著『
KRIEGSFIBEL』(1955)の英訳書『WAR PRIMER』のアプロプリエーション(※註)版として制作された。第一次、第二次世界大戦の際に使用されていた報道写真と4行詩を1組として各ページにレイアウトした手法をブレヒトは「フォト・エピグラム」と呼び、30年以上もの間断続的に蒐集された。『WAR PRIMER』は、戦争へ向けた視覚的かつ叙情的攻撃であり、現代の資本主義における伝道者的存在でもあった。それから時は経ち21世紀、いわゆる「テロへの戦い」が泥沼化する現代で、作者はインターネット上で見つけた近年の紛争に関わる人物や先導者、当事者、記者等が写る画像の中から入念かつ戦略的に数十枚を選び、ブレヒトの『WAR PRIMER』の各ページ上に貼り、『WAR PRIMER 2』を作った。2つのヴィジュアル・ヒストリーに潜む共通点として挙げられるのは、マスメディアに対する懐疑論の核心を突くという部分であり、無神経に戦争成金を生み出すフォトジャーナリズムへのメッセージ的な役割として警鐘を鳴らしている。小学校の読み書きの教科書を想起させるようなタイトルが意図的に用いられており、視覚的なメッセージを一度解体すべく作中においても鋭い言葉を選んでいることで、よりマニュアル本のような存在感を示している。ブレヒトが参照した報道写真は4行詩ありきで解読される象形文字のようであったが、本作において改めてどのように「読み」「解釈する」かを作者は実証している。爆撃によって焼け出された街や戦地、ヒトラーとその忠実な部下(ヘンチマン)、負傷した兵士や難民 &mdash ブレヒトが選んだ20世紀の画像と核心を突く4行詩。『WAR PRIMER 2』では作者の手により、アメリカ同時多発テロ事件やアブグレイブ刑務所における捕虜虐待、サッダーム・フセイン元大統領の死刑執行、ブッシュ大統領(当時)の感謝祭用七面鳥恩赦式などのデジタル画像とスクリーンショットが並置され、ブレヒトの『WAR PRIMER』が新たな意味を持つ。2011年の刊行時には、紛争で生まれたマスメディア画像の歴史的、政治的、社会的流布を問いてたが、今や時代は「虚偽報道(フェイクニュース)」へと移り変わり、この作品は歴史を物語るだけでなく歴史そのものを創るべく、イメージの持つ力とは何なのかを追求している。
※註 既存の芸術作品や既製品・広告などを取り込み再構成し、作品に仕立てる技法。「流用」「盗用」とも意味する。