PONTUS HULTÉN, SHE, A CATHEDRAL & MODERNA MUSEET. by Pontus Hultén
スウェーデン人キュレーター、ポントゥス・フルテン(Pontus Hultén)の作品集。本書は、フルテンの1950年代と1960年代における活躍、そしてそのキュラトリアル実践を凝縮した一冊である。1966年6月から9月の3ヶ月間「ストックホルム近代美術館(Moderna Museet Stockholm)」に、フランス系アメリカ人アーティストのニキ・ド・サン・ファル(Niki de Saint Phalle)とスイス人アーティストのジャン・ティンゲリー(Jean Tinguely)、パー・オロフ・ウルトヴェット(Per Olof Ultvedt)と、美術館館長であった作者とのコラボレーションによる巨大な女性像「She – A Cathedral」が設置された。この展覧会こそが本書の要であり、同美術館の歴史において最も知られ、最も議論された企画である。
2018年6月から2019年3月までの間、同美術館においてこの企画のアーカイブ展として「REMEMBERING SHE – A CATHEDRAL」が開催された。本書はそれに伴い刊行されている。1966年当時に開催された展覧会では、妊娠している女性が仰向けに寝そべっている形をした、23m x 6mの巨大な彫刻作品「cathedral」が設置され、来場者はその中に入ることができた。金魚の泳ぐ水槽、恋人たちのための2人掛けソファ、バー、絵画の展示、スウェーデン人俳優のグレタ・ガルボ(Greta Garbo)が出演する映画が上映される小さな映画館、子供用の滑り台など、さまざまなサプライズが用意されており、また像のお腹のてっぺんにある覗き穴から頭を出して展示空間の全容を眺めることができた。展示は解体までが一つのプロジェクトであり、会期後頭部以外破棄されている(頭部はまだ残っている)。本プロジェクトは、フェミニストの観点、中世のカーニバルをルーツとする「ハプニング」、来場者がアートと対話できるパフォーマティブな展覧会の一種として解釈された。
フルテンは2006年にこの世を去るまで、生前国内外を問わず、主要とされる美術館長の一人であり、「ストックホルム近代美術館」、パリの「ジョルジュ・ポンピドゥー国立芸術文化センター(Centre national d’art et de culture Georges Pompidou (CNAC-GP) 、以下ポンピドゥー・センター)」、ヴェネツィアの「パラッツォ・グラッシ(Palazzo Grassi)」など重要な美術施設を築き上げてきた。
1960年代、「ストックホルム近代美術館」ではまだ確立されていなかった、主要な美術を紹介する先駆的とも言える展覧会のシリーズを作者は開催し、現代美術において要となる施設の一つに育て上げた。そこにはアメリカ人アーティストのロバート・ラウシェンバーグ(Robert Rauschenber)、アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、フランス人アーティストのマルセル・デュシャン(Marcel Duchamp)、そしてニキ・ド・サン・ファル、ジャン・ティンゲリーらも名を連ねている。
1980年代には「ポンピドゥー・センター」の初代アーティスティック・ディレクターとして主要展覧会の企画を手がけ、とりわけパリにおける初期モダニズムを当時のモスクワ、ニューヨーク、ベルリンでのモダニズムと関連立てた一連の展覧会も展開した。
本書は、スウェーデン人アーティストであり作家のアンドレアス・ゲディン(Andreas Gedin)がその「遺産」を継いで著した一作であり、ゲディンにとって初めてフルテンに関して執筆したものである。