SHAPE, GROUND, SHADOW: THE PHOTOGRAPHS OF ELLSWORTH KELLY by Ellsworth Kelly

アメリカの現代絵画の巨匠、エルズワース・ケリー（Ellsworth Kelly）の作品集。2023年10月から2024年1月にかけて、カリフォルニアの「サンタバーバラ美術館（Santa Barbara Museum of Art）」で開催された展覧会に伴い刊行された。

過去100年で最も尊ばれるアーティストの一人である作者が手がけた作品としてはあまり世に知られていない「写真」の実践に焦点を当てており、写真作品のみを紹介する美術館での展覧会としては初めての開催となる。美しく装丁された一冊にその展示を飾った写真を60点収録する。

1940年代後半以降、作者は身の周りで目にした数々の視覚的な現象をもとに、時代を画す抽象的なシーンをカメラで写し取った。そのほとんどが自身のために制作されており、印象的な日差しと影が美しく共鳴し、綿密に構成された自然と建築のイメージの中に、作者の発見が記録されている。

写真作品を見ると、世に知られた作者の絵画作品や彫刻作品、紙上作品と似通っているように思えるが、それらは写真作品に基づいて制作されたわけではない。作者にとってカメラは、いかに他の作品と近しく抽象的な表現を用いているとしても、自身の生活環境を、主観的な現実の日常体験と反響する芸術へと鮮やかに転換させる一つのアート・ツールにすぎなかったのである。

ビーチサイドの階段にかかる影から、雪が積もる丘の曲線まで、深く感覚的な世界への興味がこの一冊を見事に彩っている。作者をよく知る者にとっても、初めて見る者にとっても、このイメージ群に触れることは、革新的な作品を生み出してきた作者がこれまで活躍してきたどのジャンルとも違う視点と考えを直接的かつ鮮明に見ることができる機会となっている。