PRESENT TENSE by Alex Katz
アメリカ人アーティスト、アレックス・カッツ(Alex Katz)の作品集。2016年2月から4月に「リチャード・グレイ(Richard Gray Gallery)」で開催された展覧会に伴い刊行された。本展示は、60年間にわたる作者の熟練したドローイング群を展覧、本書には「イェール美術学校(Yale School of Art)」の学部長を務めるロバート・ストー(Robert Storr)によるエッセイを掲載。今もなお前進を続ける作者のキャリアから70点のドローイングを収録した。
過去50年間で最も影響力があり、最も知られるアーティストの一人である作者は、88歳でなおアメリカ美術界の第一線に在り続けている。本書では、その活動においてドローイングが極めて重要であることを明らかにする。60年間にわたるポートレイトを集め、ドローイングというものが作者にとって、視野を探索し構造化させ、記録する場であることを示している。作者の作品の中でも中心的な側面を持つドローイングは、線、トーンや面のその瞬間を捉える直観性を持つツールとして役立ってきた。ドローイングによる体験は、作者にとっても鑑賞者にとっても親密なものである。紙が作者の手を直に、予想もできない形で捉えているのである。
ロバート・ストーのテキストによると、作者のドローイングは「記念碑としての価値と、グラフィックの力強い異形さ」に溢れるものだという。それは、作者の手法とスタイルを象徴する特徴でもある。ストーは作者のドローイングの進化を辿るだけでなく、現代のヨーロッパとアメリカのアヴァンギャルドという広い視野から作者を論じ、ポール・セザンヌ(Paul Cézanne)やジョルジュ・スーラ(Georges Seurat)、ピート・モンドリアン(Piet Mondrian)などのアーティストに近い作者の知覚性を解説している。このアーティスト陣のように、作者はドローイングを自身のイメージの構成に用い、ただの似顔絵ではなく、線のそれぞれをひとつの体験とみなして組み立てているのである。