SATURATED LIGHT by Wolfgang Tillmans
現代美術界で重要な賞の一つである「ターナー賞」を2000年に受賞し、ロンドンとドイツを拠点として活動するドイツ人フォトグラファー、ヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)の作品集。作者は30年近く制作し続けている代表作「Silver」を通じて新たな抽象写真の世界を創造してきた。本シリーズは、1990年代より作者が手がけている作品であり、フィルムは使わずに光や感光乳剤を用いて印画紙を直接させて制作されている。写真のプロセスの限界や表現の可能性について考察し、強制的に拡張したこのシリーズが今回初めてアーティストブックとして出版。作者はこれらの作品を「まるでソリッドカラーのように汚れていて、不純で、鮮やかで、不安定で、くたびれていて、とらえどころがなく、不鮮明で、煌めいている」と描写している。 各作品のイメージに加え、2013年にドイツ・デュッセルドルフ「K21」でのインスタレーションの一要素として使われた際の様子や、Tate Britain(2003)、ベネツィアビエンナーレ(2009)、ブリュッセル「WIELS」(2020)で行われた「Silver」単体のインスタレーションビューなど、展覧会という空間に置かれた「Silver」シリーズのイメージも収録。 芸術理論家トム・ホラート(Tom Holert)はエッセイの中で、このシリーズが投げかけている哲学的、美学的、物質的な問いと、この作品が存在することで展示空間に出現する、イメージによって語られるプロセスについて論じている。作者とフォトエンジニアのクラウス・ポールマイヤー(Klaus Pollmeier)との対話では、制作過程で無数に起きている技術的な操作や観察、偶然あるいは意図的なアクシデントについて詳しく語られている。