(UN)COVERED: MIRÓ | HAMMONS by Joan Miró, David Hammons

アメリカ人アーティスト、デイヴィッド・ハモンズ(David Hammons)とスペイン人アーティスト、ジョアン・ミロ(Joan Miró)の作品集。本書は2018年にニューヨークのギャラリー「Nahmad Contemporary」で開催された展覧会に伴い刊行された。

キャリアとしては極めて短期間重なったのみであり、一見異なる傾向を持つが、従来の美術や鑑賞の概念を覆すという点が共通する2人のアーティストの実践に焦点を当て、その2つを並行させて作品を見せる。「覆わない・明るみにする(UNCOVERING)」か、「覆う(COVERING)」か。それぞれの作家独特の取り組みを見せる。また、本展ではミロにとって初のテキスタイル作品「ソブレティクシム(Sobreteixims)」シリーズがアメリカで初めて展覧される機会となった。

ミロは、第一次および第二次世界大戦、スペイン内戦、フランコ政権など歴史的事象を経験したことにより、芸術の自由を追求する人生を歩んだ。1927年には従来の伝統的な絵画技法に批判的な「絵画の暗殺」を宣言し、型破りな素材や無秩序な構図、グロテスクな表現を用いた。「ソブレティクシム」を制作し始めた時にミロは当時77歳で、フランコ独裁政権から逃れ本土の東に浮かぶマヨルカ島にアトリエを構えていた。シュルレアリスムで用いられていた手法「オートマティスム」を活用し、布をはじめとした素材に穴をあけたり継いだり、破いたり、燃やして作品を制作していた。支持体なのか、画面なのか。その間で揺れながら、作品の手前で前景として用い「覆っている」素材だけでなく、背景として用いつつ「覆われていない」で露出している部分の素材も強調した。そのことで、伝統的な絵画の構成要素である「全景」と「背景」を同一視し、地と図の関係性を混乱させた。また「画家」という考え方に囚われることを嫌い、通例用いられて来なかった手法や素材を積極的に用いた。

ハモンズが1960年代にキャリアを始めたころには、ミロが確立した抽象表現主義が新たなスタンダードとして認識されている時代であった。当時はアフリカ系アメリカ人公民権運動と並行して社会的・政治的な変革が起きていた時代であり、ハモンズは鶏の骨やスウェットのパーカーなど非伝統的な素材を用いながら、奴隷制度や人種的差別を題材として社会の不平等を破壊しようと試みた。ミロと同様、芸術を軽視しており、「実のところ、私は芸術が受け入れられない。好きになったことは、一度だってない。」と述べている。戦後における絵画の規範というものをはっきりと否定しており、ハーレムにあったスタジオで制作した「タープ(Tarp)」シリーズでは色を塗ったキャンバスを街で見つけたボロボロの布で覆ったものである。他の作品シリーズからも見て取れるように、破損したりくしゃくしゃになった布を通して、その下の絵画的な筆致を垣間見ることができるものである。ハモンズもまた、素材のヒエラルキーを無視し、伝統的に絵画において表出していたものを「覆い」、捨てられていたものを作品として昇華する。ミロが絵画の原理を覆したように、ハモンズは従来の鑑賞側を否定している。

ミロの「ソブレティクシム」とハモンズの「タープ」は、その形式や意味するものが多面的であり、それぞれ異なる歴史的な観点から生まれた作品である。しかし同時に並べた時、類似性が顕著に現れる。既成の布を用いて規範を「覆わない・明るみにする(UNCOVERING)」か、もしくは「覆う(COVERING)」戦術で、両作はファウンド・オブジェ作品における素材的な探究とコンセプチュアリズムの批評性を融合させている。

アメリカ美術に関する作家のジョーダナ・ムーア・ サジェッセ(Jordana Moore Saggese)、同じくアメリカ美術のキュレーターであり教育者、作家のリンダ・ワイントローブ(Linda Weintraub)がテキストを寄稿。

by David Hammons , Joan Miró

REGULAR PRICE ¥16,500  (tax incl.)

hardcover
120 pages
260 x 311 mm
color, black and white
2018

published by NAHMAD CONTEMPORARY