IF I DID IT by Rachel Harrison
アメリカ人アーティスト、レイチェル・ハリソン(Rachel Harrison)の作品集。2007年2月から3月にかけてニューヨークの現代美術ギャラリー「グリーン・ナフタリ(Greene Naftali)」で開催された展覧会に伴い刊行された。当時最新の彫刻作品群に焦点を当てた一冊。
作者にとって待望の二冊目のモノグラフのカバーを飾るのは、アメリカ大陸の名前の由来となった人物への非公式な記念碑である。15世紀のイタリア人冒険家、アメリゴ・ヴェスプッチ(Amerigo Vespucci)を讃えるメモリアルであることを示す唯一のヒントは、ネオングリーンのセメントの岩礁に置かれたりんごである。もちろん、このりんごが模造品であるだけでなく、一口かじられているという事実は、「エデンの園」のような大陸の発見ではないことを示唆している。この些細ではあるが重要な事実が、本書のとっぴな思いつきのコンセプトの基盤となっている。 社会史の「進化」に対する博物館的な証としての芸術の政治的役割を明白に否定しているのである。この無視できないはずの重要性を投げ捨てることで、作者は「antimonuments(反遺跡)」を制作する。それは彫刻というよりも、大衆心理にあるぼろきれの集合体なのである。本書では、ヴェスプッチに加えて、ジョニー・デップ(Johnny Depp)やタイガー・ウッズ(Tiger Woods)などの著名人が、ジョン・ロック(John Locke)、18世紀のコルシカ島の革命家であるパスクワーレ・パオリ(Pasquale Paoli)と共にパンテオンに名を連ねていると同時に、アル・ゴア(Al Gore)は温度を確認し、クロード・レヴィ=ストロース(Claude Levi-Strauss)は雌鶏と雄鶏の剥製のドアをチェックし、バイ・キュリアスなアレクサンドロス3世(Alexander the Great)はセレモニー・マスターを務める。本書のタイトルは、O・J・シンプソン(O.J. Simpson)がニコール・ブラウン・シンプソン(Nicole Brown Simpson)とドナルド・ゴールドマン(Donald Goldman)を殺害したという悪名高い「仮説」から着想を得ており、教養のある、もしくは低俗な著名人のリストを、文化的かつ政治的価値が適切に割り振られた非階層的な絵画として組み分けているのである。