DEAREST by Magali Reus
ロンドンを拠点に活動するオランダ人ビジュアルアーティスト、マガリ・レウス(Magali Reus)の作品集。
作者の「客体性(オブジェクトフッド)」に対する思考を本の形にした一冊。装丁はアムステルダムを拠点とするデザイナーのイルマ・ボーム(Irma Boom)が手がけており、作者の3つの新作シリーズ「Dearest」(2018年)「Empty Every Night」(2019年)、「Settings」(2019-2021年)をもとに、3冊の本をテープで留め、本文には様々な種類の紙を用い、特に透明感のある紙ではそのレイヤー感を利用して遊びを与えて効果的に見せるなど、非常に洗練された作りとなっており、コレクター必携とも言える、読者に没入感を与える作品集である。
現代における彫刻の在り方や表現に対する独自の見解に対する定評がある作者は、家庭的なものから工業的なもの、機能性から装飾性まで、多種多様な形式から得た影響や文脈をもとに、視覚的なディテールを集積し、重ね、魅力的なものとして発展させる作品を生み出している。
今、最も評価の高いグラフィックデザイナーのひとりであるイルマ・ボームのデザインが施された本書は、先述した作者を象徴する3点のシリーズの表現へと導いたソースや視覚イメージ、関係を明らかにすることで、創作に対する独自のアプローチを提示している。作者の作品とより近く、より親密に繋がることができる時間を与える空間として「本」の形が考え出され、3Dの技術的レンダリングや制作計画、実物大模型、サンプル、リサーチ写真などの種々の資料や、詳細を写したクローズアップ、作品の姿がかわるがわる紹介されている。作品、製作過程、研究資料を公にすることによって、作者はひとつの媒体から違う媒体へと移りゆくモチーフの循環や、ヒエラルキー、表現、制作システムに対する独自の視点、自然とテクノロジー、ポスト工業社会における人間の活動の影響に見られる均衡を探るその手法を、読者に読み解かせているのである。
本書は、作者のいまもなお続く「客体性」に関する思考と、作者の作り出すオブジェや形の奇妙かつ反抗的な作用に最大の誉れを授けるものである。独立した3冊からなり、様々な種類の紙を用いてひとつにまとめられた本書は、それ自体が力を持つオブジェなのである。
アート評論家でキュレーターのアンソニー・ヒューバーマン(Anthony Huberman)による「Leather and Logistics」、作家で美術史家のフィロメナ・エップス(Philomena Epps)による「The Other Hour」、アーティストで作家のショーン・バーンズ(Sean Burns)による「A Love Affair」と、美術史的、文学的視点から作者の活動を分析した3作の寄稿を収録。
「イルマ・ボーム・オフィス(Irma Boom Office)」のフレデリック・ペッシュ(Frederik Pesch)とイルマ・ボームが編集を手がける。