フランス人アーティスト、ピエール・ユイグ（Pierre Huyghe）の作品集。2024年3月から11月まで「ピノーコレクション（Pinault Collection）」を展示および保管するヴェネチアの美術館「プンタ・デラ・ドガーナ（Punta della Dogana）」で開催された展覧会に伴い刊行された。

作者にとって展覧会という儀式は、それ自体が顕在化する出来事や要素の間に相互依存が発生する新たな可能性を生み出すものである。芸術と非人間的なものとの関係を模索して表現を行う主たるアーティストである作者は、初期の作品でさえ、動物的あるいは異世界的な視点を採用し、我々の理解の外にあるものを探求する。

本展では、作者の学際的な活動のあらゆる側面が盛り込まれ、感情的、身体的、精神的に移り変わる領域である「リミナル・スペース（liminal spaces）」を探求した。会場の暗く静まり返った部屋の中で、泡立つ水と来場者の足音だけが響く中、作品ごとに新しい形の無い出会いを創り出す。ビデオ・インスタレーション作品では、人間の仮面をかぶった猿のような生き物や、月のクレーターを探す顔のない女性が映し出される。他には、水槽に魚が浮かび、AIを搭載したシステムが吊り下げられた2つの箱から蒸気、煙、音楽を出す。

本書は、異世界の表面をかすめることに魅了され続けた作者のキャリアを辿る。1993年から現在に至るまで、掲載された作品の索引により、本書は作者にとってこれまでで最も完全であると言える刊行物に仕上がっている。