THE GREAT FORGETFULNESS by Haegue Yang

韓国出身、ドイツと韓国を拠点に活動するアーティスト、ヤン・ヘギュ(Haegue Yang / 양혜규)の作品集。2023年9月から2024年9月にかけてアイルランド・コークの「ナショナル・スカルプチャー・ファクトリー(National Sculpture Factory)」で公開されたコミッション作品をもとに刊行された。

同館にとって第3回にして最後の年次ネオン・コミッション作品の発表となり、9月22日の「カルチャー・ナイト(Culture Night)」に公開され、正面窓に1年間展示された。数十年にわたり、作者の多感覚的な彫刻制作の独自性は、素材のハイブリッドな使用や多義的な形態を通じて、美的知覚や知的考察に対する我々の従来の理解に問いかけ続けてきた。素材に新たな意味や連想を吹き込むその能力は、ネオンの物質的性質を探求するという本委嘱作品の趣旨を裏付けるものである。

本書は、社会における個人的な忘却と集団的な忘却との複雑な関係を扱ったアーティストブックである。人類の歴史は、植民地化や疫病といった争いと暴力によって形づくられてきた。作者の作品は、トラウマ的な記憶を抱えながら生き延びるために忘却が必要であることを探ると同時に、倫理における記憶の喪失についても考察する。多数の図版と充実した論考を収めた本書は、作者独自の言語を通して、(不)可視性と集合的記憶をめぐる中心的な問いを照らし出す。

微小な風景のなかに灯るアルファベットは、作者にとって初となるネオン作品である。現代美術における記憶文化とポストコロニアル理論をめぐる、今日の議論に寄与する一冊。

以下、展覧会テキストより

ヤン・ヘギュの実践に宿る詩情は、しばしばその政治的な関心を覆い隠している。素材を緻密に振り付けるようにして、作者は感覚的な体験を生み出すと同時に、思索へと誘う、より深い政治的な含意を掘り下げていく。

作者はこれまでしばしば、「光」と「視覚」をひとつの物質性として扱ってきた。光を濾過し、空間を変容させるベネチアンブラインドや照明器具、動く装置は、絶えず移ろう環境のなかで視点が変わるにつれ、私たちの身体感覚を呼び覚ます。「The Great Forgetfulness」は作者にとって初めてのネオン作品であり、それ自体が彫刻的な方法論とネオン照明の技術とを結びつけている。ネオン照明とは、金属電極によって帯電した希ガスの化学反応が流れを生み、そうして光を形づくるものである。

今回のネオン・コミッションのために、作者は楕円形の円盤状の彫刻的レリーフを構想した。その内部には平らな台座が設けられ、ネオンの文字がふっくらとした雲のような起伏に囲まれて配されている。自由に散らばった文字は、やがて「The Great Forgetfulness」という言葉を綴り出す。言葉を取り巻く抽象的な風景をかたちづくるマットな白いレリーフは、忘れやすいという人間の性質を示している。そこに「great」という語を加えることで、こうした普遍的な性質があるからこそ、忘れてはならない物事や人物、出来事に対する責任が人類に課されていることを示している。

2009年、作者は7点からなる彫刻群「Series of Vulnerable Arrangements – Concerns toward Personal Limits」を構想し、多様で複雑な、それゆえに要約しがたい自身の関心を、告白するようなかたちで表現した。そのうちの光の彫刻のひとつは、植民地の歴史という文脈における記憶の重要性に捧げるものとして灯されている。「Great Forgetting」と題されたこの作品は、暴力的な植民地の歴史を葬り去るために、いかに忘却が「大々的に」生み出されてきたかを、皮肉を込めて示唆している。それらの歴史は、今日もなお掘り起こされるのを待っている。集合的な歴史の記憶への関心を持ち続けてきた作者は、「ナショナル・スカルプチャー・ファクトリー(National Sculpture Factory、以下NSF)」のコミッションにあたり、この興味深い言葉へと立ち返った。「The Great Forgetfulness」として新たなかたちを得た本作は、ふたたび光を用いて、とりわけ新型コロナウイルスのパンデミック以降、人類がとどめ、さらに先へと引き継いでいきたいと願う経験や洞察を照らし出す。

作者の実践は、主題をめぐる徹底した探求と調査に満ちていると同時に、作品が置かれる場の文脈への考察にも貫かれている。作品の「場所性(locatedness)」は、時間と場所の感覚に結びついた、作者自身の芸術的な基盤によって形づくられている。作品は周囲の環境と結びつきながらも、それに縛られることなく提示される。

NSFが拠点とするヴィクトリア朝時代の旧路面電車施設の正面ウィンドウから光を放つ、思索をうながす灯火として、「The Great Forgetfulness」は丸1年にわたって光を投げかけ、観る人や道ゆく人々に、何に思いをとどめるのかを静かに問いかけた。

Haegue Yang’s First Neon Sculpture

Based on the eponymous 2024 commission by artist Haegue Yang for the National Sculpture Factory (Cork, Ireland), the publication »The Great Forgetfulness« is now being released. The artist book addresses the complex relationship between individual and collective forgetting in societies. Human history is shaped by conflicts and violence, such as colonization and epidemics. Yang’s work explores the necessity of forgetfulness in surviving traumatic memories and simultaneously reflects on the loss of memories in ethics. Featuring numerous illustrations and in-depth essays, the publication »The Great Forgetfulness« illuminates central questions on (in)visibility and collective memory through her unique language. Lit alphabets in a microlandscape, contribution to current discourse on memory culture and postcolonial theory in contemporary art. 

by Haegue Yang

REGULAR PRICE ¥6,820  (tax incl.)

ISBN: 9783775762625

softcover
112 pages
110 x 180 mm
black and white
2026

published by HATJE CANTZ