WEAVING AS METAPHOR by Sheila Hicks
アメリカ人テキスタイルアーティスト、シェイラ・ヒックス(Sheila Hicks)の作品集。オランダ人グラフィックデザイナー、イルマ・ボーム(Irma Boom)が装丁を手掛け、ライプツィヒ・ブックフェアにて「Most Beautiful Book in the World」金賞を受賞した一作。小口が柔らかくかつ毛羽だったように加工されている。永らく絶版だったが、2022年に再版された。
本書には、過去50年の間に制作した細やかな織物や細工物の記録を収録。独特の色合いや綿密な構成、垣間見える作品に込められた物語を特徴とする作品群には、作者の制作に対するアプローチの発現から連続性までが鮮やかに表れている。彫刻、タペストリー、サイトスペシフィックなパブリック・インスタレーション、衣服や制服などを再利用した環境など、実に様々なスケールの織物の制作に精通し、国際的にも高い評価を得ている。本書では、遊牧民のように暮らしていた時期に制作された小ぶりな作品をに焦点を当てている。手のひらに収まるほどのアートピースからは、作者の驚くべき旅路の記録が浮かびあがってくるようである。
本作には過去に公開された作品からそれまで個人のコレクションであった非公開のものまで、およそ100点もの小さな織物作品が収められている。その作品からは、作者の幅広い思索と関心の深さが垣間見える。たとえば、色の神秘へのたゆまぬ問答、敬いつつも遊び心を持って織物の伝統を壊していく試み、驚くほど多様な素材、新しい技術への探究。また、先コロンブス期の織物構造を元とした初期の実験から、90色もの合成繊維を使った2005年の彫刻作品までが並び、作者のコンセプトや技術的挑戦を細やかに見てとれる他にない機会を与えている。他にもアーサー・C・ダントー(Arthur C. Danto)やジョアン・サイモン(Joan Simon)、ニーナ・ストリッツラー=レヴィン(Nina Stritzler-Levine)の論説や、作者の仕事道具、資料となった絵や写真、年表なども収録されている。